重度聴覚障害児の教育においても補聴器が積極的に活用され、その成果があげられてきている。しかし、重度聴覚障害の場合にはどのような補聴器調整法が最も良いかという点について、いまだ確固とした評価法が確立されていない。本研究は従来行なわれている比較的簡便な人工的な外耳を用いたJIS規格による方法と、個々の障害児の実際の耳での補聴器出力音圧を測定する方法とを比較検討し、より適切かつ簡便な補聴器調整法を明らかにしようとするものである。JIS規格による方法としては、補聴器特性試験装置(リオン、LH-11)を用いて2CCカプラによって補聴器の利得を測定した、実耳での利得の測定には補聴器装用特性測定装置(リオン、LH-81)を用いた。また、音場でのファンクショナル・ゲイン(FG)を求めるために、幼児聴力検査装置(リオン、MG-73)を用いた。2名の重度聴覚障害者を対象として、これら3種の利得を実測し、従来軽度及び中等度の聴覚障害者に関して得られている知見との比較を行なった。1名の被検者では、従来の知見と同様に2CCカプラ利得が挿入利得を上回っており、他の1名では下回ってはいたが、両利得の差は250Hzを除き数dBであり、従来指摘されている、測定周波数とこれらの差との関連はみられなかった。また、FGと挿入利得との関係では、1名の被験者は従来の知見と同様に両利得の差は見られなかったが、他の1名ではFGが挿入利得を大きく上回っていた。これらの知見から、重度聴覚障害者においては聴取音圧が極めて強いため、測定室内での反響や測定にともなう振動、あるいは補聴器の活用の仕方の個人差が極めて大きいことなどにより従来と若干異なる結果が得られたと考えられる。多くの被験者に対してこれらの知見を確認して行くことにより、教育現場で適切かつ簡便に利用できるような補聴器調整法を明らかにしたいと考えている。
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