研究概要 |
前平衡崩壊アルファ粒子放出は,エネルギー及び角運動量の冷却効果が大きいため,超重核生成に適した不完全融合反応であるが、実験上の困難があるため、これまで用いられてこなかった。本研究では、下記のような測定装置の開発を実施し、これを用いてZ=108領域での実証試験を行い、有望な結果を得た。 1.測定装置及び方法の開発 (ア)両面にストライプを刻んだ高分解能位置検出器を製作し,エネルギーの小さなアルファ線についても良い分解能を得た。(イ)気体充填型反跳核分析器(GARIS)は高効率であるが,真空領域と気体領域をしきる薄膜のため,ビーム強度の上限が小さい。我々は差動排気系を製作し,この困難を克服した。(ウ)半導体検出器の波高値欠損の較正を重核領域で実施し、反跳核の飛行時間法による質量分析を可能にした。 2.前平衡アルファ粒子放出によるZ=108核の生成 ^<238>U(^<40>Ar,α2n)^<272>108反応をGARISを用いて実施した。焦点面に上記の位置感応型半導体検出器を置き,標的から反跳で飛び出してくる生成核とそのアルファ崩壊を検出した。この結果,半減期約0.5秒で9.35MeVのエネルギーをもつ未知のアルファ崩壊を発見した。時間及び位置相関の測定から、これは上記の反応により生成する未知核^<272>108と考えられる。この生成断面積は約1nbで,これは,通常の融合反応で期待される断面積の約30倍である。生成核の完全な同定にはまだ解決すべき点もあるため,今後,^<232>Th(^<36>Ar,α2n)^<262>106反応で同様の結果が得られるか否かを試験する予定である。
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