本研究では、低速多価イオンの幾多の多電子系原子分子衝突における電子捕獲反応断面積測定に並行し、標的フラグメントイオンの同時計測実験法の開発ならびにこれを使用した生成2価イオンのクーロン解離の研究を行い、これまでほとんど調べられていない低速多価イオンの多電子捕獲過程に関する数多くの新しい知見を得ることができた。 反応断面積測定では、C^<4+>-H_2、N_2、O_2、CH_4、C_2H_6、C_3H_8、n-C_4H_<10>、Ne、Ar、Kr衝突系における電子捕獲反応断面積、およびAr^<q+>(q=6、7、8、9、11)-H_2、He衝突系における1電子および2電子捕獲反応断面積を測定した。低速C^<4+>イオン入射では、標的原子分子の電子数の増大や分子構造の複雑化に伴い多電子捕獲反応過程の寄与が増大する一般的傾向を明らかにした。また、Kr標的においてKr_<4+>イオンの観測により低エネルギー領域でC_<4+>イオン中の性化反応つまり4電子捕獲反応の存在を実証した。さらに、Ar^<q+>-H_2、He衝突では、分極力により低エネルギー側で断面積が増大するオービティング現象が現れることを示し、このオービティング効果のイオン電荷数依存性を明らかにできた。 低速He^<2+>-H_2、N_2衝突における同時計測実験では、生成された(H_2)^<2+>および(N_2)^<2+>2価分子イオンからクローン解離によるフラグメントイオン対を同時計測し、イオン対の運動エネルギー分布測定に成功した。そして、従来の予想に反し、低エネルギー衝突ではH_2標的において2電子捕獲過程が主要反応になっていること、並びに、H_2およびN_2標的の何れの2価分子イオン生成過程においてもフランク・コンドン原理が成り立っていることを実証した。
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