研究概要 |
本研究では,主に地震活動の観測によって,雲仙火山の噴火をもたらしたマグマ溜まりの位置と上昇経路,および溶岩ドームの形成・成長にいたるマグマの挙動を解明することをめざした。成果の概要は以下のとおりである。 普賢岳噴火の前数年間は火山周辺部で地震活動が活発であり,これらの地震を用いた3次元速度構造解析では,雲仙火山の東西方向に低速度域が存在することが示された。噴火約1年前からは火山西方で群発地震が発生したが,これらの震源域は千々石湾下から普賢岳に向かって東方へ移動した。震源再決定によると,千々石湾の地震は,想定されるカルデラ縁に沿って円弧状に分布することが判明した。また,島原半島内の地震は,千々石湾の震源域と普賢岳をつなぐように東西方向に分布することが明かになった。噴火後の地殻変動から推定される圧力源の位置は上述の震源域の下限付近である。さらに,震源域下限付近および山頂下を通過する地震波には,顕著な減衰が認められた。これらのことから,われわれは,千々石カルデラの深さ10数kmにマグマ溜まりがあって,マグマは普賢岳に向かって東方に斜めに上昇したと考える。溶岩ドーム出現後はこれらの地震活動は低下したが,これはマグマの蓄積と上昇によって生じた火山深部の応力不均衡が溶岩の噴出によって解消されたことによると考えられる。一方,溶岩ドーム出現後は普賢岳山頂部のごく浅所で低周波地震が多発しているが,われわれは溶岩ドーム近傍で地震観測を実施し,これらの低周波地震の震源を精度良く決定するとともに,溶岩ドームの観察とあわせて発生機構を検討した。その結果,それらの一部は,ドームを構成する溶岩ブロックが火道からのマグマの突き上げによりスティックスリップすることによって発生したと推定される。
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