研究概要 |
1990年11月に活動を開始した雲仙普賢岳では,1991年5月から溶岩ドームが成長し始めた.研究代表者は大学合同観測班の一員として噴火の精密観測と観察に当たってきた.また,一方で噴火の進行に合わせて,連続的に採取した溶岩を室内で分析・解析行うことによって,普賢岳の地下でおこっているマグマ供給システムを明らかにする作業を分担者とともに行ってきた.この結果,今回の噴火はデイサイト質マグマ噴火としては,国の内外では噴火史上に例を見ないものであること,現在の噴火現象をできるだけ多くの分野から詳しく観測・観察し続けることが,今後の火山学上極めて重要であることが認識された. 噴出する溶岩の組成や造岩鉱物の組成は2年半の間ほぼ一定であり,基質を構成する微小結晶の大きさもほとんど変わらないことが分かった.また,一方で斑晶鉱物には非平衡状態で生じる反応縁が常に生じており,噴出時期が異なっても,その反応縁の幅に変化が認められないことも分かった.微小結晶は過冷却が効果的におきる火道中で晶出することと,斑晶の溶融速度が900℃程度では極めて遅いことを考慮すると,鉱物学的に,一見,複雑な組織や化学組成の変化は以下のようなメカニズムで簡単に理解できる.すなわち,(1)一度,安山岩と流紋岩質マグマの混合をおこしたものが地下の溜まりに存在したが,結晶と液の非平衡状態はそのまま残っていた.(2)溜まりからマグマが上昇する際の脱ガス作用によって微小結晶の晶出がおこり,非平衡状態を示す組織ができた.ただし,このメカニズムだけでは噴火速度にばらつきがあることを説明できない.マグマ溜まりのいかなる効果で噴出速度の違いが生じるのかを,今後,解明する必要がある.
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