研究概要 |
多結晶構造体の局部的な力学的挙動は結晶粒の粒度,方位及び粒界の状態などの因子に影響される.本研究では,多結晶材料の数値解析シミュレーションおよび引張り試験によって,その力学挙動を解明することを目的とした.まず,各結晶粒を正六角形でモデル化し,有限要素法によって力学挙動のシミュレーションを行った.その結果,引張り軸方向に15個,横方向に8個以上結晶粒が存在すれば,その構造物は巨視的に連続体として見なして良い事を示した.さらに,各結晶粒に注目し,粒内の微視的応力・ひずみ分布を求めた.その結果,隣接結晶粒の縦弾性係数の差が大きいほどその粒界,とくに縦弾性係数の大きい方の結晶粒界,に大きな応力の生じる事が示された.また,微視的な結晶粒の集合と考えた多結晶体モデルにおいて,巨視的な変形挙動を定性的に表していると思われる等応力線が存在する事がわかった.次に,多結晶材料として建築構造用に結晶粒を粗大化させたアルミニウム板材(曙ブレーキ(株)・グランドレーブ)を用いて,引張り軸に垂直な結晶粒界を含むように平板を切出し,表面を鏡面研磨したのちモデルグリッド(250本/inch)を焼き付け供試試験片を製作した.抵抗線ひずみゲージ式伸び計を取付け,引張り荷重を負荷して伸び計ひずみ1%毎にハイビジョンCCDカメラを用いて走査モアレ画像を取込み,画像処理を行って,結晶粒界近傍のひずみを測定した.その結果,結果粒界を境にひずみ分布の状態が大きく変化する事が確かめられた.伸び計ひずみ5%のとき,粒界前後で約2%と20数%のひずみが測定され,各結晶粒の力学的性質の違いにより力学挙動に大きな差異の生ずる事が定性的に明かとなった.このことは,数値解析シミュレーションの結果とも定性的に一致する.今後,粒界近傍の顕微鏡視野でのひずみ測定を行う事によって結晶粒界の性質を含めた多結晶構造体の力学挙動を明らかにできるものと期待される.
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