研究概要 |
既設のクライオスタット内部の実験容器中に満たされた,大気圧下で沸点近傍にある液体窒素中にルビーレーザをフォーカスさせ,単一気泡を生成させた。低温液体中に球状気泡を発生させるためには光エネルギーの適切な制御が必要である。ここでは2段式のレンズアレイを用いて環状ビームを作り,これを凸レンズで集光させることにより優れた球状気泡の生成に成功した。こうして得られる球状気泡と光エネルギーとの関係を周囲圧力をパラメータとして実験的に調べた。その結果,気泡の生成エネルギーは準静的な相変化を仮定して予測される値よりはるかに大きく,気泡の生成に対してレーザ・フォーカスの際のプラズマ生成が関与していることが示唆された。また,発泡のしきい値は本実験範囲の加圧の程度(ΔP=19.6〜98.1kPa)では圧力依存性が少ないことが明らかとなった。液体窒素中での気泡の膨張過程は液体慣性が支配的な運動であり,これに対して気泡の崩壊過程では気泡内部蒸気の振舞いおよび気・液界面での相変化などの熱的影響のために気泡の運動は遅れる傾向を示した。気泡は最大半径の約4割程度まで収縮してリバウンドし,その際液中に衝撃波を放射した。さらに気泡リバウンドの直後,気泡界面はTaylor不安定と熱不安定の重畳作用のために著しく乱れ,気泡表面はやがて分裂する傾向を示した。このような気泡表面形状の不安定挙動は沸点近傍の水中における気泡の場合にも観察され,気泡運動に及ぼす熱的効果の顕著な現れであると考えられる。また,熱力学的パラメータの導入によって液体窒素中および水中の気泡の運動に及ぼす熱的影響並びに液体慣性の影響が評価された。 以上の結果は,平成6年4月に東京で開催される第2回キャビテーションに関する国際シンポジウムで発表予定である。
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