研究概要 |
屋外に晒されている大理石質文化財は多岐にわたる素材の中で最も環境汚染の影響を受け易いことに着目し,大理石テストピースを用いて文化財に対する環境汚染の影響度を評価することを目的として実験を行った。実験方法:大理石テストピースを上野公園,鎌倉市内の文化財施設に隣接して設置し,同一地点で降雨,霧、ガス汚染質を測定した。テストピースは3ヵ月経過後回収して重量変化,表面生成物の測定を行い汚染物質濃度と比較検討した。(1)テストピースの調整:表面が均一な建築材料用の化粧板(厚さ0.5mm)を20x20mmに切断したものを1組3〜5個を支持板上に固定する。(2)テストピース暴露期間および汚染因子の測定:テストピースの暴露は1単位3ヵ月間として4単位計1年間,この間の汚染物質の測定は1ヵ月間の積算法で求めた。(3)結果の解析:回収したテストピースは重量を測定後,X線回折法で表面変化を測定した。汚染物質は1ヵ月毎の降雨水のpH,導電率,C1^-,NO^-_3,SO^<2->_4,濃度を,霧中のC1^-,NO^-_3,SO^<2->_4濃度,気体汚染質はNO_2,SO_2濃度を求め各月の累計値をテストピースの変化量と比較した。結果および考察:大理石テストピースは屋外に3ヶ月間の暴露で初期重量の0.1〜0.4%の減量があり,これは降雨中のC1^-,NO^-_3,SO^<2->_4の総量に相関がみられた。百葉箱内では3ヵ月頃まで重量が増加し,表面のX線回析でCaSO_4・2H_2Oを検出したが,その頃より結晶の剥落と思われる不規則な重量の減少が起こり,霧中のC1^-,NO^-_3,SO^<2->_4濃度との関係から汚染地区の差を比較することはできなかった。しかし上野公園および鎌倉市内4地点の屋外での大理石テストピース暴露試験による重量減少と同一地点における降雨組成(酸性雨)の総量はそれぞれ地域の特徴を表した。この方法を1年間程度継続すると各地の酸性雨による影響度を簡易に比較することがが可能と考えられる結果が得られ,この研究の成果は大きかった。
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