研究概要 |
高張力鋼の大入熱溶接熱影響部の脆化要因とされるM-A組織についての理解を深め、その悪影響の防止策を検討することによって,大入熱溶接の可能な超高張力鋼の開発に役立てようとした.このため,化学組成の異なる各種の80キロ及び100キロ級高張力鋼に大入熱溶接及び溶接後熱処理を模擬した熱履歴を与え,M-A組織の形成と分解,及びその靭性に対する影響を電子顕微鏡観察によって調べた.その結果,いずれの高張力鋼においても(高Ni濃度の1鋼種を除いて),溶接入熱量の増加と共に,M-A組織が形成され,またそれらが形態的に棒状と塊状に分類された.靭性は塊状の増加と共に低下し,塊状M-A組織が脆化の主要因であると示唆された.電子顕微鏡観察の結果,M-A組織の内部には,従来から知られてきたマルテンサイトと残留オーステナイトに加えて,2種類のセメンタイトが含まれることを示した.靭性の改善のために,溶接後熱処理として500K〜930Kでの焼鈍処理を施した結果,623KでM-A組織が炭化物とフェライトに分解し,靭性が大幅に改善された.高張力鋼と比べて,高炭素濃度の鋼材として圧力容器用鋼についても同様の研究を行ない,比較・検討した.その結果,圧力容器用鋼においては,高張力鋼と比べて,低い入熱でM-A組織が形成されて靭性が著しく低下し始め,また棒状M-A組織も塊状と同様に靭性に悪影響を及ぼすことが示唆された.溶接後熱処理によってM-A組織を炭化物とフェライトに分解することによって,圧力容器用鋼も靭性が改善された.しかし,入熱量の増加と共に靭性の改善が困難となり,高張力鋼と比べて高温での後熱処理が必要であった.なお脆化要因元素とされるPおよびSの含有量を低くした圧力容器用鋼の大入熱溶接熱影響部についても同様の実験を行なったが,靭性の改善は認められず,大入熱溶接熱影響部の靭性は,主に組織学的因子によって支配されると考えられる.
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