研究概要 |
錯体の物性が外部の摂動(光、イオンあるいはプロトン移動)により変化するようなスイッチング機能を有する錯体としてベンズイミダゾール誘導体を架橋配位子とする二核,三核,四核ルテニウム錯体を新たに合成し、プロトン移動による摂動が錯体の物性どのように影響するかを検討し,さらにどのように錯体の配列を制御できるかを検討した。架橋配位子上でのプロトン移動に伴い錯体の物性に以下の変化が観測された。(1)混合原子価錯体内での金属間相互作用の変化-混合原子価状態における光誘起電荷移動(IT帯)がプロトン化した状態では弱いが、脱プロトン化すると強くなる。このことは脱プロトン化により金属間相互作用が強まったことを示している。(2)MLCT光励起による電子の局在化する配位子の変化-Ruから架橋配位子へのMLCT吸収に基づく発光が、架橋配位子上での脱プロトン化により,励起された電子は周辺の配位子軌道に局在化するようになる。これは、脱プロトン化に伴い軌道エネルギーが高くなったためと考えられる.このように励起された電子の局在する軌道をプロトン移動によりコントロールできる。(3)電子移動消光のプロトン移動による変化-Ru-Rh非対称二核錯体ではRhサイトからだけ脱プロトン化が起こった状態では発光(寿命は室温で175ns)を示すが,プロトン化した状態ではほとんど発光を示さなくなる。この現象は,プロトン移動による"蛍光スイッチ"と考えることができる。このように,ベンズイミダゾール基を架橋配位子とする含むルテニウム多核錯体はプロトン移動に感応して錯体の性質を制御できることが明らかになった。(4)多電子移動系でのプロトン移動による酸化過程の変化-Ru四核錯体において4段階の一電子過程の電位をプロトン移動によりコントロールできることを明らかにした。この場合,錯体の配位環境が大きく影響することがわかった。
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