研究概要 |
両親媒性ポリスルホン酸に結合したシクロドデシル基(Cd)は水溶液中において自己会合して疎水性クラスターを形成する.亜鉛テトラフェニルポルフィリン(ZuTPP)をこのCdクラスター中に封じ込める(「個室化」)と,通常では全く見られない特異な光化学的挙動を示すようになることを見い出した.特に顕著な効果として,励起三重項状態が著しく長寿命化することが挙げられる.通常は2ミリ秒程度の寿命が25ミリ秒にも達する寿命となり1桁も長寿命化した。著しい長寿命励起三重項に由来する顕著な現象として,室温以上の高温においてもリン光が認められた.さらに,リン光と共に強い遅延ケイ光も認められた。発光強度の温度依存性を詳しく調べた結果,長寿命励起三重項状態に基づく遅延熱ケイ光であることが判明した.NMRの緩和時間やスピンラベル法によるESRの研究から,Cdクラスターは局所的な分子運動が著しく抑制された硬い組織体であることを明らかにした.個室化されたZuTPPの異常に長い励起三重項寿命は,ZuTPPが硬い微環境中に固定され,運動性が著しく抑制されているとともに外界との相互作用がしゃへいされているためと推定される.長寿命化した励起三重項状態からの電子移動反応をしらべるために,アクセプターとして一連のスルホニウム塩を用い,水系でレーザーホトリシスを行った結果,効率の良い光誘起電子移動反応が認められた.スルホン酸由来のラジカル及びZuTPPのカチオンラジカルは,通常ただちに反応して消失するが,個室化系では両者がCdクラスターの内部と外部に隔てられているため消失が防止されることを認めた.特筆すべき個室化効果として,光誘起電子移動反応の結果生成したZuTPPカチオンラジカルは,Cdクラスター内で著しく長寿命となり,室温の水溶液中でも数時間にわたって存在できることをESRで確認した.
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