研究概要 |
触媒的な不斉合成では触媒量の不斉源から無限個の光学活性化合物が合成できるので,高い立体選択性が達成できれば,実際的な価値もきわめて大きい.中でも遷移金属錯体触媒反応では炭素-炭素結合生成反応などに代表される多様な反応が可能であり,また触媒効率の点などからも遷移金属系触媒反応は触媒的な不斉合成に最も適したシステムである.これまでにこのような遷移金属錯体触媒を用いる高選択的不斉合成を目指して,新しい触媒反応の開発と不斉触媒の設計・合成を行い,いくつかの良好な成果を得てきた.たとえば,a)ビナフチル骨格に基づく軸不斉をもつ新しい光学活性単座ホスフィン配位子MOPは,パラジウム触媒によるオレフィンの不斉ヒドロシリル化やアリルエステル類の不斉ギ酸還元など種々のタイプの不斉反応で従来の不斉配位子よりはるかに優れた高い触媒活性と立体選択性を示した.またさらに高い立体選択性を示すビフェナントリル類縁体MOP-phenを新たに合成した.b)パラジウム触媒を用いた不斉Heck反応の反応機構について詳しく考察し,特異な光学分割過程を含む触媒サイクルを明らかにした.c)非対称ジシランを用いることによりパラジウム触媒アリル位シリル化が容易に進むことを発見した.またこの反応の不斉化にも成功した.d)イソシアノ酢酸エステルの金触媒不斉アルドールにフッ素を含むアルデヒドを用いることにより新しい生理活性アミノ酸の不斉合成に成功した.
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