研究概要 |
エンジイン化合物は,既知天然有機化合物にはない高度に歪んだ中員環エンジイン骨格を有しており,その渡環反応から生成するビラジカルがDNAを切断すること従来の抗癌剤に比べ強い抗腫瘍活性を示すことから世界的に注目を集めている。これらエンジイン化合物のDNA認識機構・切断機構を分子レベルで解明し,高い生物活性を有する新規エンジイン系抗癌剤を開発することを目指した。その結果,エンジイン化合物によるDNA切断の特徴として,塩基配列特異的およびコンホメーション特異的であることに加えて,2本鎖同時切断が顕著であることがわかった。これはエンジイン骨格が芳香環化する際に生成するフェニレンビラジカルによる5'および3'鎖のデオキシリボースからの水素原子の引き抜きに起因しており,この2本鎖同時切断のためエンジイン化合物の強い抗癌活性が誘起されていると考えられる。また,DNAのコンホメーション特異的切断として,ダイナミシンによるB-Z接合領域やバルジ塩基近傍でのDNA切断の著しい増強が挙げられる。この現象は,ダイナミシンのアンスラキノン環がDNAのマイナーグルーブでプリン塩基とインターカーレーションし,他方アンスラキノン環に対し垂直に位置したエンジイン環がその近傍の塩基を攻撃すると推定すると合理的である。このようなDNAの特微的な高次構造は生物学的に重要な機能を担っているので,エンジイン化合物の強い抗癌作用と深く関係していると考えられる。さらに,幾つかの新しいエンジイン化合物の分子設計および合成を行い,強いDNA切断活性を示す化合物を得ることができ,エンジイン化学に新しい展開を与えた。
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