研究概要 |
イオンチャンネル蛋白質が持つ顕著なシグナル増幅能を目的化学物質の高感度センシングの原理とする脂質二分子膜型センサーの一般化のための基礎研究を行い,以下の知見を得た。 1.ラット小脳のシナプス後膜より単離精製されるグルタミン酸受容体イオンチャンネル蛋白質(GluR)を埋め込んだ脂質二分子膜のアゴニスト選択性を,そのサブタイプを特定した上で精密に評価するための基礎検討を行った。NMDAサブタイプのみが活性となるような実験条件下で,代表的な数種類のアゴニストについて,チャンネル透過イオン(Ga^<2+>及びNa^+)の総量に基づくアゴニスト選択性を評価し,その選択性の序列がbinding affinityによる選択性の序列と一致すること,ただし選択性の幅は著しく狭くなっていることを明らかにした。さらに,Ca^<2+>の透過量に基づくアゴニスト選択性を,GluRを埋め込んだリポソーム系に対する薄層ポテンシオメトリーにより評価し,NMDAサブタイプについて平膜系と同様なアゴニスト選択性を見出した。GluRが膜を介して生起する信号(イオン透過量)の大きさを指標とする本研究のアプローチは,従来のbinding affinityを指標とする方法とは異なり,生理適合性のある選択性を評価しうる新しい方法である。 2.電気ウナギの発電器官より単離精製される電位作動性ナトリウムイオンチャンネル蛋白質を,種々の目的化学物質に対する選択的膜電位変化を生起する人工レセプターと一緒に埋め込んだハイブリッド型の脂質二分子膜型センサーの作製を目指した基礎検討を行った。上記蛋白質をバリノマイシンと共存させた平面脂質二分子膜を調製し,ハイブリッド膜において前者のイオンチャンネル機能が保持されることを確認したが,溶液中に低濃度のK^+イオンを加ると膜抵抗が大きく低下し,膜電位変化を伴うチャンネル電流の変化を確実に測定することが可能な電気回路と測定系について検討を行う必要性が明らかとなった。
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