研究概要 |
精度の高い同調培養系と、安定な細胞マーカーとしてβ-ガラクトシダーゼ発現ベクター形質転換された粘菌細胞(Dictyostelium discoideum Ax-2)とを用いて、飢餓処理の時点における個々の細胞の細胞周期上の位相がそれに続く形態形成(分化)期での細胞選別・パターン形成とどのように関連するかを詳細に解析した。その結果、細胞周期のなかにあって増殖/分化の分岐点と考えられるPS点の直前で飢餓処理された細胞(T7細胞)は集合中心として機能し最も早く集合するが、細胞塊(マウンド)においてはいったん細胞集団内で均一に分布し、その後、移動体においては後部に選別されること、一方、PS点の直後で飢餓処理された細胞(T1細胞)は遅れて集合に参加し、マウンドにおいては均一に分布するが、乳頭突起および移動体の形成に際して前部に選別されることが明確に示された。次に、増殖/分化の切り換え機構を探るため、PS点近傍で特異的に変動する遺伝子発現に注目し、細胞周期からの離脱の引きがねとなるような遺伝子の単離とその構造解析を試みた。その結果、PS点の直前で飢餓処理したときにのみ特に顕著に発現する遺伝子として3つ(Quitl,Quit2,Quit3)が見出された。これらの遺伝子の塩基配列を決定したところ、Quit1 mRNAはcAMPレセプター1(CAR1)をコードし、Quit2 mRNAは新規のCa^<2+>結合性タンパク質(分子量、19,500)をコードしており、また、Quit3にはORF(open reading frame)がないが、その相補鎖にはアネクシンVII(Annexin VII)がコードされており、アンチセンスRNAの形成によるAnnexin VII発現制御がありうること、などが明らかにされた。
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