研究概要 |
平成5年度は以下の2地域にてアザミ属の現地調査を実施した.この野外調査で得られた押葉標本は約200点で,これらについてはデータベース化が完了している.ここでは現地調査の成果を中心にして以下に報告する. 1)9月に長野県唐松岳八方尾根にて調査を行った.この調査では新種ハッポウアザミの存在が明らかになった.このアザミはナンブアザミ節ナンブアザミ亜節キソアザミ列に所属する高山性の植物で,八方尾根の蛇紋岩地帯の固有種である.ハッポウアザミは形態的に北アルプス中部以南,御岳,中央アルプスの高山帯に分布するキソアザミに近縁である.一方,もう一つの新種シロウマアザミはナンブアザミ列に所属し、白馬岳とその周辺の蛇紋岩地帯の特産で,この列の種としては高山帯にも分布域が及んでいる点で特徴的である.シロウマアザミがナンブアザミとハクサンアザミの雑種起源である可能性については現在解析中である.これらの2種に加えて,福井県嶺南地方と岐阜県美濃地方の新種エチゼンヒメアザミ(スズカアザミ亜節),そして岐阜県東濃地方と長野県木曽地方の新種リョウノウアザミ(リョウノウアザミ亜節)については学術雑誌に投稿中である. 2)10月に四国山地,石鎚山と天狗高原及びその周辺地域にて,シコクアザミ,イシヅチウスバアザミ,ツクシアザミ,トゲアザミなどについて調査を行った.このうち,ツクシアザミについては九州の集団とはフラボノイド・パターンが異なることが分かった.また四国山地上部の特産種トゲアザミは,これまでノアザミの1型とみなされることが多かった.しかし形態的形質とフラボノイド・パターン(岩科,未発表)が異なる点で従来の処置に再検討の余地のあることが示唆された. 国立科学博物館に収蔵されているアザミ属の全ての標本についてデータベース化が進行中である.
|