研究概要 |
東京湾の浮遊生物生態系は,極めて単純であるが,それぞれの生物のバイオマスは異常に大きい.一般に単純な生態系はフレキシビリティーが低く,小さな環境変化によって大きく変動すると言われる.東京湾における赤潮発生,ミズクラゲの大量発生などの現象はこのような生態系の特性が原因となっている可能性が大きく,またこのような少数種の生物の大発生は,しばしばそれらの種自体の突発的な衰退につながり,それに伴う水質悪化により他の生物の大量斃死をも引き起こす.従来,このような環境と生物に関する研究は,夏期の水質悪化時にのみ行われ,それに関してのモデル実験が行われてきた.しかし,実際は冬期の懸濁物の生産や栄養塩の動向が夏期の水質環境に大きな影響を与えているのは自明のことである.本研究では長期間に亘る毎月の観測データや実験に基づき,東京湾の浮遊生物生態系の特質と環境との関わりを解明することを目的とした。 我々は,1970年代後半から研究練習船「青鷹丸」または実験艇「ひよどり」により主として湾奥と湾央部の2測点において毎月1回の調査を継続してきた。また,本科学研究費補助金の交付期間中は測点を湾内全域に広げるとともに研究項目を大幅に増やし,また水温・塩分,クロロフィル,栄養塩濃度の周年変動および,植物プランクトン,バクテリア,ミクロ動物プランクトン(従属栄養鞭毛虫,繊毛虫),カイアシ類,尾虫類,クシクラゲ,ミズクラゲの個体数(細胞数)密度等の多くの項目について調査した。また,クシクラゲ,ミズクラゲ,尾虫類については飼育実験により成長,摂餌などに関する研究を進めた。3年間の資料に基き,湾内における栄養塩の収支をモデルを用いて月ごとに明らかにし,また生態系モデルによって植物プランクトンの現存量に対する環境の影響を評価した.以上の結果の多くは既に発表済みであり,また一部は現在印刷中および,投稿中である.
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