研究概要 |
現在のわが国の畜産は生産コスト,家畜の健康,地下水汚染などの環境との係わりにおける様々な問題を抱え,さらに牛肉の輸入自由化による畜産物価格の低下に伴い,存続の岐路に立たされている。これらの諸問題を解決あるいは緩和し,特に九州の中山間地帯を中心に家畜生産を展開させようとするのが「くぬぎ林間放牧」方式である。 クヌギ林間放牧地はクヌギ林外に比べて気温の日較差が小さく,温和な条件下にあった。またクヌギの樹齢が10年前後に達しても,林内への光透過がスギ林地に比べて良好であった。このように,クヌギ林間放牧地は放牧家畜の成長や下層植生の生長にとって,温度および日射環境の面から有用であると推察された。 クヌギ林間放牧地へのオ-チャードグラスやレッドトップなどの牧草種の導入は,春期における早生産量を高める効果があり,放牧開始の時期を早めるとともに,牧養力を高める可能性があると考えられた。 クヌギ林地への家畜の放牧は,表層土壌の個相率,仮比重および土壌硬度を上昇させ,浸透能および透水性を低下させた。しかし,クヌギ林間放牧では,樹木を含まない人工草地と比較して土壌物理性および透水性におよぼす家畜の放牧の影響が,より深い土層に及びにくかった。 家畜を放牧しないクヌギ林地ではほとんど表面流出水が認められず,侵食土砂量も極めて少なかった。放牧開始7年目のクヌギ林間放牧地では降水量のわずかに0.04%が表面流出したにすぎず,年間の比土砂量も1.25g/m^2程度ときわめて少なかった。他方,人工草地では降水量の18%が表面流出し,年間の比土砂量も14-151g/m^2に達した。以上の結果からクヌギ林間放牧地は水・土壌保全機能において,樹木を含まない人工草地と比較して優れていると推察された。
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