研究概要 |
造血器腫瘍発症の分子機構を解明するため,動物に自然発生するリンパ腫,白血病における癌遺伝子および癌抑制遺伝子の異常を解析した。核内遺伝子群としてはi-myc遺伝子の異常がネコのリンパ腫4例,イヌのリンパ腫1例において見い出された。なかでも,ネコの2例ではネコ白血病ウイルス(FeLV)によるmyc遺伝子のtransductionが認められた。また,ネコのリンパ腫におけるFeLVの共通組み込み領域の検索を行った結果,8例において8kbの限定された領域にFeLVが組み込まれていた。この共通組み込み領域(fit-1)は,ネコB2染色体上にあり,既知の癌遺伝子および共通組み込み領域とは異っていたため,新しい癌関連遺伝子をコードしている可能性が示唆された。一方,癌抑制遺伝子としては,ネコのp53遺伝子のクローニングを行ったところ,全翻訳領域を含むcDNAを単離することができた。このcDNAクローンは,386アミノ酸をコードし,ヒトおよびマウスのp53遺伝子とそれぞれ82.1%および74.9%の相同性を示した。PCR-SSCP(single strand conformation pdymorophism)法によって解析したところ,ネコのリンパ腫の2例において異常バンドが認められた。塩基配列解析の結果,p53遺伝子の機能発現に重要な保存領域III〜IVにおいてアミノ酸の変化を生じる点突然変異が見い出された。さらに,イヌおよびネコのリンパ系腫瘍におけるT細胞レセプター遺伝子および免疫グロブリン遺伝子の再構成を解析することによって,これら腫瘍のクローナリティおよび細胞の分化段階を明らかにし,癌遺伝子および癌抑制遺伝子の異常との関連を示すことができた。これら研究の結果,動物の造血器腫瘍において多数の癌遺伝子および癌抑制遺伝子の異常が見い出され,さらに腫瘍発生と関連する新しい遺伝子領域を見い出すことができ,造血器腫瘍発症の分子機構解明のためのきわめて有用な知見が得られた。
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