研究概要 |
蓚酸は,動物では有害無益な代謝終産物とされており,過剰に生産されると多くの組織への蓚酸カルシウム結晶の沈着のため重篤な状態を引き起こす。草食動物(ヒトを含む)では,蓚酸の直接の前駆体であるグリオキシル酸をその主たる生産部位であるペルオキシソームにおいて除去する機構(SPT/AGTという酸素)を備えることにより蓚酸生成を抑制している。本研究では,動物において何故蓚酸が作られるに至ったかを理解するために,蓚酸生成機構を解明しようとした。主たるグリオキシル酸産生臓器である肝臓での蓚酸生成を研究対象とした。グリコール酸オキシダーゼがグリコール酸からグリオキシル酸へ,更に蓚酸へという連続した2段階の酸化反応を触媒する可能性はほぼ完全に否定された。グリオキシル酸とシステインあるいはシステアミンの付加物(チアゾリジン化合物)を介する経路の関与については,たとえあるにしても主たるものではないことが示唆された。乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)に関しては,単離ペルオキシソームに検出される活性は吸着LDHのものと結論された。しかし,その強い活性故に,サイトソルに極く微量存在するグリオキシル酸が,同酵素によって触媒される乳酸-ピルビン酸間のシャトルにおいて基質の一つになり,蓚酸に酸化される可能性が大となった。一方では,ペルオキシソームで生産されたグリオキシル酸がSPT/AGTの作用を逃れてサイトゾルへ放出されるか否かとその速度を検討すると共に,多量の乳酸,ピルビン酸が存在する生体内でのLDHによるグリオキシル酸酸化を動力学的に解析するためのより単純な系を検索した。その結果,積極的に蓚酸を生産しているイネもみ枯細菌病菌(Pseudomonas glumae)の蓚酸を作らない,したがって病原性を持たない変異株が供給されたグリオキシル酸からは蓚酸を生産することを見出した。このPs.glumae変異株での蓚酸生成の動力学的解析の上で再び肝臓を研究する。
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