研究概要 |
損傷検査は法医学の最も重要な任務の一つであり,しばしば損傷検査において,成傷器の種類並びにその成傷機転の推定,さらに,生前・死後の鑑別を含めた受傷後経過時間の判定が具体的に要求される.そこで,本研究では損傷検査を更に精密でかつ客観的なものにし,得られた記録を客観的に保存するシステムを開発するとともに,組織・細胞レベルでの損傷の受傷後経過時間判定方法をも含めた,損傷の微視的・系統的検査方法の確立を目的として行われた. 1.損傷の微視的検査方法の研究 手術用双眼顕微鏡を用いてヒトの皮膚損傷を観察し、損傷検査における有用性を検討した.その結果,表皮剥脱における成傷器の作用方向,挫裂創と切創の鑑別,及び刺創における成傷治癒の瘢痕や微小血管の損傷、並びに狭窄などの病理学的変化の程度を客観的且つ正確に評価することにおいても大変有効であった.また,若手法医学研究者や臨床医家の教育システムの一手段としても有用であった. 2.損傷の受傷後経過時間判定に関する研究 損傷の治癒過程における炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン1α(IL-1α),並びにI型コラーゲンやフィブロネクチン等の細胞外マトリックスの損傷の治癒過程における動態や局在を免疫組織化学的に検索し,それらを比較検討した.その結果,IL-1αは受傷後3時間から1日目までの受傷後早期の経過時間判定のための有用な指標となり得ることが新しい知見として得られた.また,コラーゲンやフィブロネクチン等の細胞外マトリックスの損傷の治癒過程の増殖期においては有用となることが明らかにされた.したがって,これらの複数の指標を組み合わせることにより,より正確且つ客観的に損傷の受傷後経過時間の判定が可能となった.
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