研究概要 |
当施設では肺癌発生過程の様々な段階における症例を経験し,それらの症例の標本を保存してきた,これらの標本を用いて肺癌発生過程の一端を解明するために,子宮頚癌などでその関与が論じられているHPV感染および多くの癌でその異常が報告されている癌抑制遺伝子p53と,肺癌発生との関係について検討した.まず,HPV感染と肺癌発生の関連についてPCR法およびin situ hybridization法によって検討した.40サイクルのPCR法,ワイドスペクトラムプローブを用いたin situhybridization法では,肺癌組織中にHPV DNAは検出されなかった.40サイクルのPCR法を2回繰り返した場合にのみ検出された.肺癌発生に関してHPV感染は,子宮頚癌などで考えられているような関与はされていないと考えられた.癌抑制遺伝子p53は,肺癌発生においてどの程度関与しているのかを検討した.PCR‐SSCP法を用いてp53遺伝子変異を検討した結果からは,胸部X線無所見肺癌という肺癌発生の早期の段階においてもp53遺伝子変異は進行肺癌と同程度存在した.また,免疫染色を用いた検討では,異型上皮・早期肺癌・進行肺癌と癌進展度の進行と共に染色陽性率の増加を認めた.正常上皮や過形成ではp53の異常は認められなかったこと,異形上皮の段階でp53の異常が認められたこと,癌進展の進行と共に免疫染色陰性化した症例を認めたことなどから,肺癌発生過程において,p53遺伝子変異が関与する段階は,異形成の段階からである可能性が高いものの,p53遺伝子変異のみでは癌化しないと考えられた. 以上のことを踏まえて,今後,肺癌発生過程における種々の遺伝子変化の段階を検討していく必要があると考えられた.即ち,p53遺伝子変異が生じる前後に生じる遺伝子異常について,種々の手法を駆使して検討していく必要があると考えられた.
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