研究概要 |
口腔腫瘍,とくに悪性腫瘍の治療にあたっては外科手術,放射線照射,化学療法,あるいはこれらの組み合わせが,組織型,腫瘍の部位,転移の有無など様々な要素をもとに選択される。本研究では,培養系で口腔腫瘍細胞の性状を把握し,これをもとに悪性度を評価し,さらに治療法選択の基準を確立することを目的とした。 実験には舌扁平上皮癌(53歳女性)と歯肉扁平上皮癌(75歳男性)の原発巣から樹立した2種類の細胞系(それぞれMOK-101,MOK-201と命名)を用いた。原発腫瘍はいずれも低分化型,2型浸潤様式(山本-小浜分類),Annerothのmalignancy point(1983)はそれぞれ17点,16点であり,類似の組織学的特徴を呈した。まず液体培養法にてMOK-101,MOK-201の倍加時間は21.0時間,29.1時間,飽和時間は3.01×10^5個/cm^2,6.67×10^4個/cm^2と,MOK-101の方が増殖速度が大きく,また活発に増殖したが,腫瘍幹細胞を検出していると言われる軟寒天内培養法でのコロニー形成率は0.008%,0.23%と,逆にMOK-201が高率であった。またコラーゲンゲル培養法によるin vitro浸潤モデルではMOK-101はMOK-201よりも高頻度にゲル内へ侵入した。さらに両細胞系をヌードマウス(BALB/c,nu/nu,雄,6週齢)の背部皮下と舌筋層に移植し,造腫瘍性および組織所見を観察したところ,MOK-101は背部皮下,舌筋層いずれの部位でも腫瘍を形成したが,MOK-201は舌筋層では腫瘍を形成したものの背部皮下では形成しなかった。組織学的にはコラーゲンゲル培養法で高頻度にゲル内侵入を示したMOK-101はexpansiveな増殖を呈したのに対して,ゲル内侵入が低頻度であったMOK-201はinvasiveな増殖を示した。以上の如く,両樹立細胞系は原発巣の組織像が類似していたが,培養およびヌードマウス移植実験では様々な違いがみられた。この結果は人体材料の組織学的検索では把握できない生物学的特性を,培養法により捉えることができることを示唆するものと考えられるが,今回の培養結果の解釈には更に検討が必要である。 さらに両細胞系を用いて制癌剤感受性試験をコロニー形成抑制法とsuccinic dehydrogenase inhibition test(SDI法)で行ったところ,前者では判定が容易でなく,結果にばらつきが大きかったが,後者では客観性,再現性に優れていた。
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