研究概要 |
1.ナトリウム利尿ペプチドファミリー:我々はナトリウム利尿ペプチドファミリーの臨床的意義について分子生物学的手法を用い検討を続けてきた。これまで、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)遺伝子発現が主に心房において認められるのに対し、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は主に心室であり、BNPが心室から分泌される心室ホルモンであることを証明するとともに、ヒトへのANP,BNP投与が心不全の病態を改善することも実証した。また慢性心不全患者心室におけるBNP遺伝子の著明な発現亢進とANP以上の分泌亢進も明らかにした。今回、急性心筋梗塞患者において血中ANP濃度に変化のない発症早期において血中BNP濃度の急激な上昇が認められることを明らかにした。これらの結果は心室のBNP遺伝子発現がANPと明らかに異なることを示しており、急性心室負荷に対するBNPのemergency hormoneとしての臨床診断的、病態生理的意義を示唆している。一方、Cタイプナトリウム利尿ペプチド(CNP)は従来神経ペプチドと考えられていたが、今回、培養血管内皮細胞においてCNP遺伝子発現が認められ、内皮細胞より分泌されていることを発見した。更にヒトを含む種々の哺乳類の生体血管壁においてCNP遺伝子発現を証明した。これらの結果はCNPが新たなペプチド性の内皮由来血管弛緩因子である可能性を示しており、その血管収縮弛緩・増殖における病態生理的意義が注目される。 2,エンドセリンファミリー:エンドセリン(ET)ファミリーの臨床的意義を明らかにする目的で、ヒトの2種類のET受容体(ET-A及びET-B受容体)の遺伝子のクローニングを行い、それぞれの遺伝子の全構造及び染色体位置を明らかにした。ヒトET-A受容体遺伝子は40kb以上の大きさで8個のExonと7個のIntronから構成され、ET-B受容体遺伝子は24kbの大きさで7個のExonと6個のIntronから構成されていた。両遺伝子とも第1及び第2膜貫通領域のみが同一のExtonに、他の膜貫通領域は全て別個のExonにCodeされていた。転写開始点はET-A遺伝子で1ヶ所、ET-B遺伝子で2ヶ所特定された。どちらの遺伝子にも典型的なTATA boxは存在せず、いずれも転写開始点上流にSP-1結合部位が認められた。また、5′隣接領域には、種々のcis-elementsが認められた。ET-A受容体遺伝子は第4染色体に、ET-B受容体遺伝子は第13染色体に同定された。本研究の成果により、ET受容体遺伝子の転写調節機構及びET受容体遺伝子変異の検索等の病因論的意義の解明の進展が期待される。
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