研究概要 |
平成5年度に,摘出潅流肺標本を用いて,低酸素性肺血管収縮(HPV)反応を指標に(1)ラットの高地適応能に対する系統差に関する研究,(2)HPV反応の減弱現象に関する解明を行った。 (1)について;HPV反応の大きさは種間差が著しく,また同一種内では個体差が著しい。そこで今年度は,ラットを用いて系統間のHPV反応のちがいを検討し,最も反応の顕著な系統と逆に最も反応の鈍い系統を選別した。用いた系統はLEW/SSN(7匹),F344/N(7匹),WM/MS(3匹),WKAH/HOK(7匹),WF/N(7匹),SD(27匹)の6系統合計54匹である。その結果,HPV反応には系統によって著しい差が認められ,6系統の中でHPV反応の最も顕著な系統はWKAH/HOKで逆に最も鈍い系統はF344/Nであった。両系統間ではHPVの反応性に2倍以上の差が見られた。今後さらに可能な限り多くの系統について追加検討し,モデル動物を選択する予定である。 (2)について;HPV反応の本態はまだ解明されていないが,本現象は生体の生息環境によって変動することが明らかとなった。近年,このHPVは高地環境暴露によって減弱され,また運動トレーニングによっても減弱することが明らかになった。そこで今年度は高地環境の一要因である寒冷に着目し,寒冷暴露によるHPVへの影響について検討した。その結果,HPVは寒冷暴露によって有意に減弱し,またこの減弱現象は動物を室温に戻して飼育すると,比較的初期にその反応性も回復し,暴露解除後3日目には有意に増強することが明らかとなった。HPVの生理学的意義が解明されていない現在,その減弱現象の意味付けをすることは困難であるが,HPVは生体の低酸素換気時における肺循環調節に重要な役割りを果しており,高地順応解明に大きく役立つものと思われる。
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