研究概要 |
本研究では,酸素摂取量に対する酸素不足の意義を明らかにするために,運動中の酸素不足がその直後の酸素摂取量に及ぼす影響について検討した。この課題を明らかにするために,大学男子中長距離競技者8名を対象にして,4分間走後の酸素負債量と6分間走中の酸素摂取量を,約6.5分でexhaustionになる同一速度のトレッドミル走を用いて測定した。その結果,4分間走後の酸素負債量と6分間走中の最高酸素摂取量との間には有意な相関関係は認められなかったが,中距離競技者は長距離競技者に比較して,4分間走後の酸素負債量が同じ場合には,6分間走中の最高酸素摂取量は低く,6分間走中の最高酸素摂取量が同じ場合には,4分間走後の酸素負債量は多い傾向が認められた。また,800m走と500m走の平均速度の比と,4分間走後の酸素負債量と6分間走中の最高酸素摂取量の比との間には有意な正の相関関係(r=0.804,P<0.05)が認められた。この結果は,相対的にみて中距離型の競技者は長距離型の競技者に比較して,同一水準の酸素摂取量を得るのに走行中の酸素不足量が多いことを意味するものである。酸素不足量が多くなると,筋内のpHの低下や水素イオンの貯留量の増大を招き,その結果として長時間にわたる運動の継続が不可能となる。しかし一方では,走行中の酸素不足の増大は,pHや酵素分圧の低下を招き,前者は換気の亢進,後者は肺や筋での酸素の拡散速度の増大をもたらす可能性がある。これらは,いずれも一過的であるかもしれないが,走行中の酸素摂取量の増大を引き起こす一つの要因になると考えられる。本研究では,このことを直接明らかにしていないが,今後,本研究の課題をさらに検討することによって,最大酸素摂取量の限定要因やスピード化している長距離競技のトレーニング法に対する有用な知見が得られると考えられる。
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