研究概要 |
線虫C.elegansのフッ素イオン耐性変異は、全て劣性の変異で、成長速度を遅くする強耐性変異(flr-1,flr-3,flr-4の3遺伝子)と、成長速度を変えずに強耐性変異の成長の遅さを抑圧する弱耐性変異(flr-2,flr-5の2遺伝子)がある。本研究では、(1)やり残していた弱耐性変異のマッピングを行い、(2)欠失変異とのヘテロ接合体の表現型を調べて弱耐性変異が機能欠損/低下型の変異であることを知り、(3)既存の変異との相補性試験により5遺伝子全てが新しい遺伝子であることを確認し、(4)変異がdauer幼虫形成に影響を及ぼすことを発見してこれらの遺伝子が神経関連の機能を持つ証拠を得た。また、強耐性変異遺伝子のうちのflr-1とflr-3の遺伝子とcDNA(部分長)をクローニングした。flr-1はある種のチャンネルに似ており、flr-3は新しいファミリーのタンパク質キナーゼと思われる。flr-3は、5'側の異なる2種類のcDNAが得られ、alternative splicingをしている可能性がある。 clr-1様変異(腸と体壁の間に隙間ができる幼虫致死変異)は、既知のシグナル伝達関連遺伝子(let-23,let-341,let-60,lin-45,sem-5,lag-2,clr-1)か、未知の遺伝子にある。未知の遺伝子は、これらのシグナル伝達系の一員か、シグナル伝達の下流で細胞分化や細胞機能をつかさどるものと考えられる。本研究では、未知の遺伝子の1つlet(ut102)を含む4.4kbの遺伝子断片をクローニングした。現在、その全塩基配列を決定中だが、まだ既存の遺伝子とのホモロジーは見つかっていない。今後は、(1)この遺伝子の発現部位を調べて致死変異の標的器官を探し、(2)種々のシグナル伝達変異によりこの遺伝子の発現が変化するかどうかを調べ、(3)この遺伝子クローンの変異体線虫への導入で他のシグナル伝達変異が抑圧されるかどうかを調べて、既知のシグナル伝達系との関連を解明する予定である。
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