研究概要 |
耐熱性と強い圧電効果をもつ強誘電性高分子材料を開発する目的で,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と,新たに合成した高いVDFモル分率をもつ三フッ化エチレンとの共重合体P(VDF-TrFE)を高圧結晶化し,その構造と圧電物性を研究した.また,強い圧電効果の発現に重要なラメラ結晶の高次構造の形成ついて検討した.主な研究成果は下記の通り. 1.PVDFおよびVDFが85モル%以上のP(VDF-TrFE)について,斜方晶,六方晶,液相の温度と圧力の関係(温度-圧力相図)を求めた.この相図に従って六方晶相で伸び切り鎖β型ラメラ結晶を生長させることができた. 2.六方晶相において結晶化したβ型PVDF膜を新しい方法でポーリングすることにより,205℃に融点と電気機械結合係数kt=0.27をもつ耐熱性圧電膜が得られた.従来のPVDF膜よりも耐熱性,圧電性が極めて優れている.この結果,高分子では未実現の,ktが0.3以上の膜を得る見通しを得た. 3.延伸P(VDF-TrFE)膜を特殊な方法で常誘電相で結晶化すると,結晶a,b,c軸が膜全体にわたって配向した巣結晶膜が得られることを発見した.この膜の力学強度も圧電性も強い.全く未知の新型結晶膜である. 4.P(VDF-TrFE)のラメラ結晶中に,強誘電性ドメイン構造が存在することを,暗視野電顕像で観測した.高分子強誘電体で観測されたのはこれが最初である. 5.P(VDF-TrFE)結晶内の分子鎖は常誘電相では鎖に沿っては液体的であり,垂直方向には固体結晶として振舞う一種の液晶状態であることが横波超音波の異方性の測定でわかった. 6.高圧結晶化したPVDFで作成したトランスジューサは180℃以上でも超音波の送受ができた. 7.PZTとP(VDF-TrFE)を積層した超音波送受波子は2周波同時駆動が可能で,前者で送信,後者で受信すると高感度で送受波ができた.
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