研究概要 |
本研究の特色は、ケラチン繊維の構造特性をよく認識したうえで、「繊維束の吸水速度」という総合的で迅速な評価法に着目したことにあるが、その目的は、毛髪の損傷度を全体的かつ簡便に評価する方法を開発し、毛髪処理を適正に(過不足なく)行うための診断法として応用することにある。 平成4年度には主たる装置となる「静電容量法による移動水分量測定装置(WR)」を開発し、二、三の紡織繊維束試料を用いてその有効性を評価した(Hiraku ITO and Yoichiro MURAOKA,Water transport along textile fibers as measured by an electrical capacitance technique,Textile Res.J.,63,414-420,1993)。さらに、測定データを直接コンピュータに入力して解析するためにソフト及びハード両面での改良を行った。また、この年度の設備備品費により「繊維表面ぬれ性測定装置(Wilhelmy型)」を購入し(基本設計は当報告者による)試料取り付け方法などを含めて単繊維試料での測定技術を確立した。一方、毛髪試料のWR法による評価について予備的検討を行った。すなわち、毛髪試料に酸化剤(DCCA:ジクロルイソシアヌ-ル酸)による表面酸化処理及び紙やすりによる物理的損傷を加えて損傷毛髪を調製し、WR法で水分移動が観察される条件について調べた。 平成5年度には、前年度までに損傷条件が確定された各試料の損傷度を走査電子顕微鏡法及びアミノ酸分析法により評価した。さらに、未損傷毛髪及び損傷毛髪試料束中の移動水分量の評価を行い、未損傷毛髪試料ではほとんど水分移動が認められなかったのに対し、損傷毛髪束では明瞭な吸水挙動が観察され、しかも毛髪の損傷度と移動水分量との間には相関性の成り立つことが示された。また、Wilhelmy型装置を用いて、損傷された毛髪試料の接触角やぬれ性(cosθ)を定量的に評価したところ、この結果はWR法による繊維束試料での測定結果を支持するものであった(Hiraku ITO and Yoichiro MURAOKA,Damage of hair fibers as evaluated by an electrical capacitance technique,Textile Res.J.,Submitted)。以上の結果より、WR法は迅速で簡便な毛髪損傷度の評価法として極めて有望であることが分かった。
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