研究概要 |
今年度に実施したのは,以下のようなことがらである。 1)健常老年者,軽度痴呆老年者,健常成人(大学生)の3群に継時的に顔写真を提示して先に提示された顔かどうかを判断する実験を行なった。一度提示されて次に提示されるまでの時間,すなわち記憶保持の時間の影響についての検討では特記すべき結果は得られなかった。しかしながら,被験者群と刺激となった顔との間に交互作用が見られ,老年者は老人の顔写真,大学生は同世代の顔写真に対する記憶が優れることが明らかとなった。これは,顔の記憶における親近性効果を示すものと考えられる。 2)前年度に行なった実験の結果と今回の結果を総合的に集計し,結果の統計分析を行った。 3)老年者の記憶機能についての神経心理学的研究の文献による検討を行なった。とくに,老化による脳損傷がどの部位から始まるかについての従来の神経心理学モデルを概観し,2年間に行なった健常老年者,痴呆老年者での実験結果がどのモデルにより整合的に説明できるかを考察し,報告書を作成した。本研究の実験結果からは,老化にともなって前頭葉機能がまず低下すると考える記憶モデルへの一致がうかがえた。 4)実験結果の一部をまとめ学術論文として発表した。また,フィンランドで行なわれたヨーロッパ心理学会においてその結果を発表した。
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