スリットを通過する図形がなぜ伸びて見えたり、縮んで見えたりするかという、Helmholtz以来の問題について、以下のような説明がなりたつ。(1)図形の輪郭とスリットの両端がなす角度の鋭角の部分が過大視される結果、図形の通過速度が一定の割合(=a)で過大視される。(2)図形がスリットの両端を通過するさいに見かけの通過時間がbだけ加算されることによって速度vが過小視されてv'と知覚される。(3)図形の伸縮率Rは(図形の見かけの移動距離)/(実際の移動距離)であらわされるとすると、R=v'/v'=t/t'と書ける。ここでtとt'は通過時間と見かけの通過時間である。両者の間にはt'=at+bという関係が成り立つことがわかったので、伸縮率R=t/(at+b)という関係式があてはまった。 スリットの背後を通過する図形は2次元図形だけにとどまらず、3次元物体が回転しながら通過するさいにも正しい知覚が可能である。まず計算論的に、剛体性、角速度一定、回転軸固定という制約条件のもとで、3点の位置が3回与えられれば、スリット視の事態で奥行きを(計算上)復元できることがわかった。とりわけx軸を回転軸にして図形がスリットを通過する場合、y方向の速度が奥行きの復元に重要な役割を果たしていることが示唆される。そこで横倒しの円錐形の側面が線分からなる図形(x軸が回転軸)を用いて図形の奥行き感と線分の本数、角速度の関係を調べたところ、角速度が速くなるにつれて、奥行き感が増す傾向が見られたが、約3度/フレームで漸近値に達した。また線分の本数についても、本数が増すにつれて奥行き感が増す傾向が見られたが、これも頭打ちになる傾向が認められた。この評定された奥行き感にどのような要因が関与しているか調べたところ、各線分のもつy方向への速度の合計値が、評定値と高い相関をもっていた。
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