研究概要 |
本研究の目的は、通常の学校教育を受けた日本人が英語および日本語を聴取する場合、「日本人にとって英語の聞き取りはなぜ難しいのか」という問題を中心にして、言語音聴取における日本語の特殊性について聴覚実験及び視聴覚実験を通して、実験心理学的に検討することであった。 1.平成4年度は、主として聴覚実験を行い、(1)日本語と英語の母音知覚の関係を調べると、日本人は/i/,/〓/,/a/はほぼ日本語のイ、エ、アに対応させて知覚するが、/I/はイとエの中間に、/〓/はエとアの中間に知覚すること、(2)母音の弁別に生じる刺激提示順序効果において、日本語の母音イ、エ、アに近い英語母音(/i/,/〓/,/a/)の付近ではその生起が認められること、(3)日本語の母音にないカテゴリー/I/の付近では、刺激提示順序効果は認められないこと、(4)刺激提示順序効果は、より典型的な母音が後置される方が弁別の成績が良くなるように生起すること、等の知見が得られた。なお、刺激音のカテゴリーと知覚の関係を調べるために、言語音以外でカテゴリー知覚を行う絶対音感保持者のピッチ知覚についても実験を行った。 2.平成5年度は、主として視聴覚情報の統合実験を行い、(1)視覚刺激が音韻知覚に影響を与える(マクガーク効果)場合の母音文脈の影響は、視聴覚間の統合においても認められること、(2)この場合、母音環境が/i/や/a/の場合の方が/u/の場合より大きいこと、(3)マクガーク効果においては、注意の振り向け方が重要な要因となること、等の知見が得られた。以上の結果から、長期にわたる言語学習による母語のプロトタイプの形成、視聴覚間の情報の統合における韻質についての短期記憶と音韻カテゴリーについての短期記憶の違い、等の観点からの考察を行った。
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