研究概要 |
本研究の目的は選言型推論能力の獲得過程および獲得時期に関する先行研究の理論的対立を克服し、先行研究の諸結果を統一的に解釈しうるような説明理論の妥当性を実証的に検討することであった。当初の研究計画において予定していた選言型4枚カード問題、選言型3段論法、選言型トートロジーの3課題のうち、本研究では選言型4枚カード問題(平成4年度)、選言型3段論法(平成5年度)の2課題およびそれらの結果を解釈するのに必要な選言文解釈課題(平成4,5年度)の調査を実施することができ、次のような知見を得た。 1.選言文の前件と後件とが両立可能な選言文を用いて、選言型3段論法を実施した場合、小学生低中学年ではほとんどの者が論理的に妥当な推論ができず、小学生高学年、中学生でさえ正答率が50%を越えない程困難な課題であった。このことは、この推論が既に5,6歳児から可能であったというBraineらの結果は、彼らの実験で与えられた選言文の前件と後件とが両立不可能であり、選言型論理に固有の困難があらかじめ回避されているためであるとするわれわれの説明を裏づけるものであった。 2.選言型4枚カードについても、前件と後件とが両立不可能な選言文を用いた場合、選言3段論法とほぼ平行した発達過程を示し、ここでもまた、選言型推論は小学校低中学年ではほとんど不可能であり、形式的操作が可能となる前青年期に獲得されるとするわれわれの予測を裏づけるものであった。 3.選言型3段論法、選言型4枚カード問題という2つの選言型推論課題と選言文解釈との関係については、解釈は推論より発達的にやや先行するとはいえそのずれは小さく、選言型推論は選言文解釈が可能となることを不可欠な前提としながらも、両者は連帯的に発達することが示された。
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