覚醒剤(MAP)乱用者にみられる精神病様状態(MAP精神病)では自己と他者の関係の異常を反映する幻覚・妄想が認められる。そこでMAP精神病のこの特徴を含んだ動物モデルを作製する目的で、飼育兼観察箱(51×40×35cm)に2匹のオスを同居飼育しこれらの対を3群に分け、まず一方のラットに生理食塩液(SAL)を、ついでこれらのラットにSAL、MAPの0.25または1mg/kgのいずれかを反復皮下投与し社会行動の変化を検索した。投与30分および1時間後の各20分の観察結果から以下の知見を得た。 1.初めのSAL後では、approach(相手への接近・嗅ぎ回り)が多く、Face-to-face(互いに顔を近付けあう)、boxing(互いに立ち上がりボクシング様行動をしあう)がみられ、摂食時に相手に接近されるとescape(反転して逃避)もみられた。allogrooming(相手をグルーミング)、attack、on-top-of(相手の上にのしかかる)、on-the-back(仰向け姿勢)などは少なかった。 2.MAP後にはapproachが減り、摂食と関係なくescapeが増し、face-to-faceもみられた。この傾向は、用量の増加および投与回数の増加により強まった。加えて、1mg/kgでは相手の明らかなapproachなしにすばやく反転するescape様行動がみられ、また非投与のラットにもescape様行動がみられた。 3.MAP後には歩行、立ち上がり、回転などが増加しており、それに伴い他個体への積極的な接近は減少したとも考えられる。一方、逃避行動が増加し、しかも通常みられない過敏な逃避行動もみられたことはMAPにより他個体に対する認知が変容していることを示唆する。非投与の動物の行動も変化している点も合わせて、本モデルがMAP精神病発現の行動的側面を理解する上で有用であるといえる。
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