Cohen、March and Olsen(1972)のゴミ箱モデルは、公式組織の意思決定過程について、問題、選択機会、参加者、解の四つのフローに半独立的な関係を想定し、組織の意思決定の合理的ならざる側面を分析した。本研究では彼らの想定に加えて(1)組織は利害対立する複数のサブシステムと複数の階層からなる(2)意思決定はオーソリティの適度の参加によって可能になる(3)成員の選好はサブシステム内部の問題を選好する自己閉塞的構造をとるか、サブシステム間の問題に関心をもつかのいずれかである。という想定を追加したシミュレーション・モデルを開発し、組織の意思決定過程について皮肉ではあるが、興味深い多くの命題を導いた: ・対立する部局間の代表による意思決定システムは、成員が自己閉塞的選好構造をとるとき、効率が増大する。 ・意思決定への参加者が「自分たち」の問題に愛着をもち、活性化するほど意思決定の効率は低下する。 解決すべき問題の数が適切なオーソリティの数を規定する。問題数に比してオーソリティの数が少なすぎる場合にも、多すぎる場合にも意思決定の効率は低下する。 ・諸選択機会に参加するオーソリティの増加(組織規模拡大、成員の能動化)が問題解決率を高める効果は、それが選択機会の不一致を増加させる効果によって抑制される。 ・選択機会の不一致は意思決定過程におけるスラックとしての側面をもち、問題数の増加とともに放出される。 ・問題数が増加するほど、組織の下層構成員の利害にかかわる問題は無視される、等々。 ゴミ箱モデルは従来からも大学などの教育組織の意思決定過程の研究に用いられることが多かったが、このモデルも総合大学の教授層による委員会方式の意思決定過程等の分析にかなりの有効性を発揮するであろう。
|