研究概要 |
本研究の目的は,荘園における中世的な年貢制の成立適程を究明し,併せて中世の年貢の持質を解明することにあった。 1.年貢の成立過程に関しては,初期荘園段階からの史料が残る東寺領丹波国大山荘や伊勢国大国荘の事例により,荘園の地利の呼称が11世紀後半に,それまでの地子から官物,ないしは年貢に変化することを実証し,この収納物の変更をもともなう変化が,中世的な荘園年貢の成立を意味しているとした。ついで,その前提に「領域型荘園」の広範な成立があったことを論じ,荘園年貢は地子のみならず,国衛領の官物をも継承する.特殊な租税であると捉えた。またこのような年貢の規定と関連して,中世の年貢を代表する品目である米・絹・布がいずれも中世成立期において,貨幣としての役割を果す物品であり,そのことゆえに年貢に選ばれやすかったこと,したがって荘園領主経済は当初より,都市における一定の商品流通を前提として組み立てられていたとけなければならないとした。 2.年貢の収納については,検注による斗代と年貢品目の決定から,具体的な収納のあり方までをとりあげるなかで,特に(1)検注帳の作成が荘園領主と百姓らによる一種の「契約」を意味していること,(2)米以外の絹などを年貢とする荘園のばあい,年貢納入の過程で百姓レべルでの交易も介在させていたこと,を実証的に明らかにした。またこの「契約」の問題に関しては,年貢の未進・対捍と損免要求に対する荘園領主側の対応を明らかにするなかで,より具体的に論じた。 なお,2の成果は今後,何らかの形で活字にする予定である。
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