寺院に所蔵されている聖教典籍類に捺印の蔵書印は、その聖教典籍類の所蔵関係や伝来を示すが、その蔵書印の印文には、寺院名、院坊名、僧侶名などがみられる。現在、各寺院で行われている聖教典籍類の調査は、現所蔵の状況を正確に目録化することが多い。調査としては正鵠ではあるが、現状では概内本坊などに集中所蔵されている場合が多く、本来での寺院内での所蔵形態や伝来を示すものでないことが多い。そこで本研究では滋賀県石山寺所蔵の深密蔵聖教という一聖教群(各院坊に分蔵されていた聖教を大正年間に本坊に集めたもの)を対象として、各聖教に捺されている印章の分析と、それが収められている経箱の墨書銘および江戸時代後期に作成された各院坊の所蔵聖教目録などを考察の材料として、できるかぎり現在深密蔵聖教として一括されている聖教群の江戸時代末期から明治時代にかけての石山寺寺内での所蔵状況を明らかにした。深密蔵聖教の経箱111箱(他に空箱1箱あり)の旧蔵すべてについてその伝来が明らかになったわけではないが、大半について判明したといえる。今後は墨書銘がないもので、内容物が多様なものについてより詳細な作業が必要と考える。今回石山寺所蔵の江戸時代の聖教目録を若干データベース化したが、それの利用により今回は石山寺密蔵院経蔵聖教目録の翻刻を行い、また詳しい聖教整理にも有益となろう。翻刻釈文は、江戸時代末期の寺院院坊において、学僧により聖教数がどのように整理、所蔵されていたかをしるための有効な史料となろう。
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