研究概要 |
本年度交付された科研費でPauly-Wissowa編『古典古代学事典』を購入することができた。当初の予定どおり、本事典にあたり、小アジアにおける前1世紀の反ローマ闘争のひとつであるミトリダテス戦争のただ中にあった個人、都市、村落、民族などの特徴を探り、この戦争中における反ローマ的もしくは親ローマ的行動の経過および原因等について、それらの社会・経済的条件に照らして考察することができた。 また古典史料としてはSallustius,Historiaeにおさめられているポントス国王ミトリダテス6世からパルティア国王アルサケスにあてた書簡および、これに関連する欧米の研究書をも精読した。とくにこの書簡は建国以来のローマ史を、小アジアという辺境地帯の一国王ミトリダテスが、いかに解釈していたのかをあきらかにしている。かれによれば、ローマ帝国の拡大は他民族の支配と略奪の歴史にほかならず、ローマ国民がそのような行動に出た理由は、ひとえに彼らの「支配権と富への深い欲望cupido profunda et divitiarum」のゆえであるとされた。こうした見解は当然にもローマ側の見解と真っ向から対立する。ローマ側のそれはAppianos、Mithridateios所収のスッラの演説によくあらわされているように、ローマの小アジア進出はシリア王アンティオコスから小アジア住民を解放するためだったのであり、決して支配権と富への欲望のゆえではなかった。 本年度の研究では、ミトリダテス戦争の実態の解明と共に、この戦争が当時のローマや小アジアの人々にとってどう見られていのかーーローマの侵略戦争か正当なる戦いなのかーーという、いわばイデオロギー的な面についても若干の考察を加える事ができた。
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