研究概要 |
本研究は、土器・陶器の外観に表れない諸特徴を自然科学的手法を用いて分析し,製作地同定,材料の選択,製作技術の差などを明らかにすることを目的としたものである。 (1)土器胎土の地域差と器種による材質の選択(2)高温焼成物の粘土の特徴(3)成形痕の復元の3つの課題の基礎的作業をおこなった。(1)の課題は土器に含まれる岩石鉱物の種類と,成因によって地域差を識別することと,砂粒を粘土の含有比率によって選択を区分しようとするものである。従来からすすめてきた約4500点の資料の整理をおこない,日本列島各地域の土器に表れる岩石学的な特徴の区分と,器種による材質の選択の有無を主な内容としたものである。今回の研究で,新たに岩手県兵庫館跡と中屋敷遺跡出土の遠賀川系土器の製作地同定のための分析をおこない,また岡山県倉敷市楯築弥生墳丘墓出土の特殊器台,長頚壷,高杯の分析から,3種の材質選択の証拠が得られた。これらの成果は『新視点 日本の歴史』(1993年),『楯築弥生墳丘墓の研究』(1992年),『岩手県文化振興事業団埋蔵文化財調査報告書』(1993年)に発表した。 (2)の課題は,須恵器と陶器など高温焼成物の粘土として,海成粘土が適さないという一般的理解があるが,その原因が主に海水中の硫黄酸化物などによる粘土鉱物の変質であろうという見通しをたて,その分布として仙台市大蓮寺窯跡の溶融した窯壁資料の分析を実施した。(3)の課題は,古墳時代小型須恵器の粘土紐巻き上げによる痕跡の有無を調査することを目的とするもので,その分析技術の1つとして螢光剤の注入による紫外線発光解析法を応用し,種々の土器・陶器による基礎的データの蓄積をはかった。この成果の一部は,平成5年3月に国立歴史民俗学博物館でおこなわれた,「重要歴史資料調査分析研究会」で発表した。
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