本研究では、まず近世漢字音資料の文献学的、資料的検討を行った。次いで、その内からサンプルを選び、そのデータのコンピュータによる整理を試みた。その過程において、その資料を用いての具体的な近世漢字音研究を進めた。当初の目的は基本的には達成することが出来たと考えられるので、今後は本研究の成果を、数年前に開発したコンピュータによる漢字音音韻処理のプログラムとドッキングさせ、一種の近世漢字音資料ミニデータバンクとでも呼ぶべきものを作ることを計画している。具体的な成果の内、主たるは以下の通りである。 1資料の豊富な関西を中心とする各地の近世日本漢字音資料の文献学的調査を行い、有用な資料の整理・発掘が出来たこと。 2有用な資料の一つである『悉曇字記真釈』を取り上げ、その特異な漢字音の、またその分類方法等の調査と整理を行い、その一部をコンピュータで処理できるようにしたこと。これにより、近世の字音観・字音分類探求の礎が築けただけでなく、他資料のデータ処理への糸口が開けたこと。 3コンピュータ処理を施したデータは、それを必要とする他研究者にいつでも提供できるようにできたこと。 4上記の作業の過程において、そのデータを用いた研究、さらにはこれに関連する上代漢字音の研究も行え、そして、それを論文にまとめ、一部はすでに公表したこと。 なお、上記の、既開発のプログラムとのドッキングは、本研究成果が今後における漢字音データの研究及びコンピュータによる処理に大きく寄与する可能性を持っている。
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