研究概要 |
本研究は,仏書抄物についての研究の一環として,『臨済録抄』の諸本を発掘・整備し,その日本語研究資料としての有効性を解明しようとしたものである。 1.発掘・整備 (1)未調査ならびに調査不十分の『臨済録抄』を調査し,複写を入手して,その目録を作成した。 (2)調査できた『臨済録抄』は,大応派系抄(大徳寺系抄・妙心寺系抄)・傍流系抄・五山系抄の3類4種に類別することができた。 (3)これを『碧巖録抄』の場合と比較すると,大応派系抄が多い点は共通しており,洞門系抄が存しない点が『碧巖録抄』と大きく異なっている。『臨済録抄』に洞門系抄が伝存しない理由は今のところ明らかでない。 (4)大徳寺系『臨済録抄』諸本,a尊経閣本系,b足利学校本系, 松ケ岡本系,d駒沢大本系,e叡山本系の5種の本を比較して,13世紀の大応国師にはじまり,15世紀の実伝宗真によってまとめられ,17世紀の沢庵宗彭にまで継承展開されていく抄物本文を分析し,その重層性を具体的に把捉した。 2.日本語研究資料としての有効性 (1)従来国語資料として利用されてきた抄物は五山派の僧の手になる経・史・子・集部の抄物であったが,本研究によって,大応派の僧による多数の仏書の抄物を日本語研究資料として活用し得るようになった。 (2)『臨済録抄』の抄物は当時の俗語を多く用い,方言(信州方言)に言及するところもあるので,特に語詞・語〓研究資料として有効である。
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