サンスクリット語をはぢめとする印度アーリア語の構文論(シンタックス)の研究は、印度學の中でどちらかといへば従来なほざりにされてきた分野である。これは、欧米の印度學者が、西洋古典語に類似ししかも構文の上ではやや簡単なサンスクリット語のシンタックスの精密かつ網羅的研究を必ずしも重要視しなかったためである。とはいへ、十九世紀から現在に至るまで、印度アーリア語シンタックスの個々に問題について、多くの學者がさまざまの研究書や論攻を著してゐる。しかし、全般的なサンスクリット語シンタックスの解説書は十九世紀末にJ.S.SpeijerがSanskrit Syntax(Leiden 1886)、Vedisehe und Sawkrit Syutax(Strasskurg 1896)の二書を世に問うて後は、これといったものが現れてゐない。個別的問題について秀れた研究がなされてゐることを別とすれば、印度語シンタックス研究は比較的低調であったといってよいであらう。しかし、近年、新しい言語理論を踏まへ、あるひは電算機を駆使してなされたとおぼしき従来にない方法による印度語シンタックス研究書がいろいろと著され、この分野の研究に新気運が生れつつあるかのごとくである。本年度の調査では、とりあへず今述べたやうな研究史的概報を把握することができた。同時にシンタックス研究文獻目録作製のため、主要印度學専門誌から闘傍する論文を吟味し、必要事項カードに記入してゆく作業を進めていったが、これは豫定より遅れ、引く続き来年度に継続されねばならなぬ見込である。
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