講義(独話)に見られる不整文脈(いわゆる「文脈のねじれ」)の分析を試みた。資料としては留学生の聴解訓練用に開発された「講義理解のための日本語ビデオ教材」(東京工業大学人文社会群1987)の中の二つを用いた。どちらも20分ほどの講義である。 不整文脈として扱ったのは、単文の場合は文、複文の場合は南のC類従属句を単位として、先行成分から予想される対応する成分がその単位の中にないものである。成分の繰り返しや、言いかけた語を言い直したものは不整文脈に含めなかった。格助詞一個の言い直しは語の言い直しの場合に準じた。また、明らかな言い誤りと見られるものも例に含めなかった。このようにして整理した結果、資料Aには19例、資料Bには9例の不整文脈が見いだされた。 このような不整文脈は大別すると、意図的なものと意図的でないものとの二種類に分けられる。意図的なものは話し手が発話を編集して、訂正したり新たに文を決定したりしたために文脈のつながりがきれたものである(例:エーマクレラン訳のみらず、例えばサイデンテッカー訳のオー「細雪」イーあるいはエーコノーなどを比べましても)。意図された文脈の変更は、変更後ただちに察知できることが多い。これに対して意図的でない不整文脈は、話し手の発話の編集がゆるんだ結果おきると考えられ、話題の展開につれ構文が当初の予定からずれていくもの、語句の位置の不適切なもの、表現自体が誤用に近いものなどいくつかのタイプが見られた。こちらは不整文脈が生じても発話の展開を待たなければそれと分からない場合が多い。この二種の不整文脈の発話の韻律的特徴を解明するのが今後の課題である。
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