本研究は、税務行政手続きに対して果たしている司法の役割の日独比較研究であるが、当初から2〜3年の期間をかけて研究する予定のものであったので、本年度はドイツの税務行政手続き、特に税務調査に対する判例の傾向を検討した。この分野でのわが国司法の傾向は、周知のように、「社会通念上相当な限度」を超えない限り税務職員の裁量を尊重し、違法な調査と合法な調査の限界を曖味にし、調査過程における納税者の手続き的権利の保障にきわめて消極的である。これに対して、ドイツでは調査過程における納税者の手続き上の権利ともいうべきものを裁判所がかなり尊重しているといってよいであろう。しかしこのことが直ちに裁判所の税務行政そのものに対する姿勢の違いといえるかどうかはなお慎重な検討が必要であるように思われた。 というのは、わが国では、国税通則法に調査手続きに関する規定が全くかけているのに比して、ドイツでは租税基本法において詳細な手続き規定が設けられているからである。例えば、納税者側からの調査延期請求権(租税基本法197条)、書面による調査命令の交付、事前通知、終結話合い(同201条)、等の手続き規定をあげることができ、その意味では、裁判所の違いというよりも立法そのものの姿勢の差異が大きく影響しているとも思われるからである。 そこで、今後は法規定にあまり差異がみられない他の手続き、例えば賦課処分における理由付記、推計課税等についての検討を行い、司法コントロールの日独の差異についての研究を行いたい。その上で、かりに差異が認められるとしたら、その要因にドイツの財政裁判制度そのものや、いわゆる名誉職裁判官制度等の市民参加制度が影響を及ぼしているかどうかの検討も行う予定である。
|