本研究では、フレックス福祉制度とメンタルヘルスケアという2つの側面に集中してわが国の企業福祉の将来動向に関する調査研究を行い、同時にこの面での欧米企業の実態をサーベイした。今回の研究を通じて研究代表者は、次の3つの結論を得ることができた。第1には、これからの日本企業の従業員福祉の理念が「生産者のための画一的福祉サービス」から「生活者のための個別的福祉サービス」という方向に基調を転換していくということである。第2には、「生活者のための個別的福祉サービス」という理念を実現していく上で、いまだ充分に着手されていない最も重大な領域は、(1)従業員サイドにたった産業精神衛生活動、(2)従業員の地域コミュニティでの生活を充実させるための各種の施策という2つの領域であるということである。第3には、日本の企業福祉の将来の在り方を検討するさい、市民社会としての成熟度を高めるという観点から欧米の企業福祉施策を取り入れて改善する余地が大きいということである。生活者としての従業員という視点から企業福祉を実現していくことは、個人が全体社会に自立的に参加する成熟した市民社会をわが国に実現することに貢献するものと考えられる。この意味では欧米企業の従業員福祉は日本企業の従業員福祉の将来展望を行なうさいの先進的なモデルとなるのである。
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