上記の研究課題に対して、今年度の研究によって得られた成果は次の通りである。 (1)19世紀後半のドイツにおける代表的な救貧制度であるエルバーフェルト制度については、数度に亙って改正された「救貧規則」などを分析することによって制度の拡充を確認するとともに、救貧件数とそのうちわけ(人数、期間、理由など)、救貧支出、それらの対人口比の統計をこの制度の実施(1853年)から第一次世界大戦までに時期について整理することによって、この制度が実際に運用され、機能していたのか、について輪郭を明らかにすることができた。 (2)この制度の前提・枠組みとなっていたプロイセン=ドイツの救貧法令については、1842年、55年、70年、1924年、60年の法令条文を比較対照することによって、地方自治体による事業が次第に統一的になっていったこと、また、救貧事業から公的扶助への性格の変化がみられたこと、が確認された。 (3)救貧制度と社会保障の他の形態との関連については、1870年代後半から80年代初頭にかけて貧民の増大という問題が社会的に意識され、それを解決・克服するために社会保険立法が提起されたこと、社会保険立法が成立した後には、それらが貧民問題の解決にどのような意義を有したかについて種々の議論がなされていること、が明らかとなった。 以上のような論点、とくに(3)を一層深めるとともに、それら相互間の関連を整理して研究の成果を公刊することが今後の課題である。
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