研究概要 |
1990年5月の慮泰愚韓国大統領の来日を契機に提起された朝鮮人強制連行問題は、その後の韓国人被害者が提訴した補償請求裁判やジャーナリスト・市民グループによる調査研究によって、動員の実態が明らかにされつつある。 それは日本人に朝鮮植民地支配の責任を自覚させるうえで大きな役割を果たしたが、歴史学的見地からみた時、いまだ体系的・構造的にはとらえられていないように思われる。本研究は、そのような現状をふまえ、主として公開資料によりながら朝鮮人強制連行を政策史的観点から跡づけようとするこころみである。主要論点は以下のとおりである。 1.強制連行の定義:植民地における強制連行の"強制性"を物理的強制としてではなく、法律と命令による法的強制に求めた。これにより占領地における労働力徴発や俘虜の強制労働と区別した。 2.強制連行政策:3段階に区分される強制連行の政策的展開を、朝鮮における労働力再配分計画および戦争末期の軍要員確保政策との関連で位置づけた。 3.動員規模:国外への動員数のみならず、朝鮮国内動員数についても把握することに努めた。推計値は国外119万人、国内319万人である。 4.動員実態:韓国政府記録保存所所蔵の「倭政時被徴用者名簿」により慶尚北道48,021人分、慶尚南道29,864人分について実態分析を行った。 5.違法性:1930年国際労働総会採択の「強制労働ニ関スル条約」等の労働規約の観点から朝鮮人強制連行の違法性と日本政府の責任を明らかにした。
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