研究概要 |
本研究においては,昭和金融恐慌期を中心にして,日本の戦前の銀行制度の安定性を理論的かつ歴史的かつ実証的に分析した。 (1)まず,歴史的分析においては,明治維新における自由競争的な政策から,1920年代後半からの銀行合同政策への変化する過程において普通銀行,貯蓄銀行などがどのように統合・整理されるかを見た。政府は,安定的な銀行制度の確立のためのは,上述したような政策変化が不可欠であるとしたが,その根拠が正しいかどうかは理論的かつ実証的に検討する必要がある。 (2)1927年の金融恐慌を実証的に分析するため,次のような仮説をもうけた。銀行は不確実性の下で収益のリスク,取付けリスクなどを考慮に入れて,最適な資産・負債構成を決定する。このようにして銀行の選択した資産・債務は,銀行が事後的に破たんする確率を左右する。したがって1927年に銀行休業においこまれた銀行が、そうでない銀行と異なったポートフェリオ選択を行っていたかを見ることになる。 (3)実証研究においては,休業を正常な営業状態と区分するために,質的変化としてとらえ,プロビット・モデルを用いてみた。1926年末に営業していた普通銀行が休業したかどうかを26年末の各銀行の自己資本比率,預貸率,利潤率などで回帰した。その結果,(1) 銀行休業は,その銀行が健全な経営を行っているかどうかに大きく依存していた。(2),全国でみると規模の大きさは,有意な効果をもっていなかったが,東京だけをみると中規模の銀行破たんが大きな影響を及ぼした。(3)統営形態は差をもたらさなかった。以上の結果から,1927年の銀行休業の多くが,銀行の不健全経営によるところが多いと結論できる。
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