ドイツ統一後、旧西ドイツ企業の対外直接投資が活発化するであろうことが大方の見通しとされていた。しかしながら旧東ドイツ経済が予想をはるかに越えて悪化していたことが次第に明らかになってきた。統一後、ドイツ連銀はインフレ懸念からの高金利政策の堅持、旧東ドイツ社会経済基盤のための過度の連邦財政支出、企業レベルにおける旧東ドイツ再建のための連帯税新設、各種租税負担率の引上げおよび女性・若年層の失業者の増大が重なり、ドイツ全体の経済の動きは停滞の局面に入ったといえる。こうした急激な経済環境の変化は1年半前には正確に誰れもが把握しきれてはいなかったと言える。したがって統一直後から明らかにされた旧西ドイツ側の主な10のコンツェルンによる旧東ドイツ地域における新たな工場新設計画、雇傭創出計画も、当初の計画実施時期を大幅に遅らさざるを得ない状況になってきている。昨夏渡独し、旧東ドイツ国営企業の旧西ドイツ企業への売却、外国企業への売却ならびに域内投資を仲介、促進するための「信託公社」にて旧東ドイツ地域への投資状況を調査した。旧東ドイツの国営企業のうち取捨選択した約1万4000社のほぼ7割が売却・投資対象となっている(1992年末)が、規模の大きな化学会社等は未処理になっている。流通部門においては旧西ドイツ企業よりもフランス系企業による取得が多い点が特色である。他方ドイツの誇る「複合ハイテク産業」であるダイムラー・ベンツ、AEG、シーメンスなどの企業における投資戦略の調査を実施した。その中で、数年間は旧東ドイツ再建のため積極的な対外投資をおこなう状況にあるものの、EC域内における国際分業・下請産業系列化が着実に進行すると同時に、今後開発する新しい商品が高い開発費と大型プロジェクト化、ハイリスク発生に伴う、ドイツ・日本・アメリカとの国際共同開発への志向を強めつつあることが顕著になってきているのである。
|