研究概要 |
1.海上保険における委付制度の歴史的沿革について研究した。 (1) 従来の学説によれば,委付が最初に認められたのは,1435年バルセロナ条例(valroger),1459年(Goldschmidt),1468年ヴェネツィア条例(Azuni),ギドン・ド・ラ・メール(Pardessus),1588年にジェノヴァ条例(Rocco),16世紀(LyonーCaene Renault)などである。 (2) しかし報告者の研究によれば,委付の歴史は海上保険の歴史と共に古く,その最初の記録は1397年のフィレンツェの証券に求めることができる。歴史的にはフィレンツェ証券よりいくらか早いピーサの1380年代の証券にはこれに類する条項はなく,またフィレンツェ証券よりわずかに遅いヴェネツィタ証券には見られない。したがって委付制度はフィレンツェで発生したと解すべきである。なお,委付が条例ないし法律で認められた最初のものは,1538年のブルゴスの条例と思われる。いずれにせよイタリアではなく,スペインの保険条例である。 2.1983年のイギリスにおけるロイズ・S.G.証券からMAR証券への移行,新I.C.C.の制定によって各国(日本を含む)の海上保険約款は相次いで改訂されたが,各国の新約款における委付制度を比較検討した。その結果,日本を除き,各国の委付制度はそのまま維持されていることが判明した。しかし結果的には日本も同一の取扱といえる。 (1) 新I.C.Cの13条は推定全損約款(Constructive Total loss clause)をおいているが,それは旧I.C.Cの6条と同じ内容である。 (2) ドイツの新ADS(1973/1984)は行方不明の場合に全損金を支払っている,ただし委付とは呼んでいない。 (3)1983年フランス,1983年イタリア,1988年スイス約款も委付制度を維持している。
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